アパートの隣の部屋で怒鳴り声が聞こえる。耳を澄ますとどうも酔った息子の声のようだ。
隣はおばあちゃん(母親)と50代の結婚していない息子の二人住まいだ。
息子は、頭が剥げていて、昼間もぶらぶら歩いていて、あまり働いているように見えない。
締りのないタコみたいな顔をしている。
おばあちゃんは、腰がまがって小柄だ。
足が悪くで、ヒコヒコ歩く感じの人でいかにも人の良さそうな感じだ。
耳が遠い。
どうも、息子が騒いでいるようだ。
「おまえは何だ! ばばあ。」
「何言っているんだ。」と怒鳴り声は続く。
「おれあ、関係ねえ」
そのうちにバシッ、バシッという音まで聞こえてきた。
どうも殴っているようだ。
ここに来て、どうしようか考えた。
所詮隣の家のことだ。
関係ない。
そんなかかわりになると面倒だ。
でもおばあちゃんが殺されたら。。。
とても嫌な気分になるだろうな。
そうしたら悔いが残るな。
よしやろう!
とにかくやめさせないと。
覚悟を決めた。
おそるおそる。アパートの隣のドアを叩いてみた。
トントントン
中の人は気づかない。
少し勇気を出して
ドンドンドン
さらに勇気を出して
ドンドンドンドンドンドン
中で声が聞こえて、ドアが開いた。
「どうしたんですか?」
「息子が酔って私を殴るんです。」
「昼間からカラオケ行って、働かないんです」
「何言ってんだ。ばばあ」
「ひどいんです」
「そうなんですか?」と私
「ばばあ、勝手なこというんじゃねえ」
バシッと息子は小柄なおばあちゃんの頭をぶった。
おばあちゃんはよろけた。
「おまえ何すんだ!」
「この、ばああが悪いんだ」
彼が言い、終わらないうちに
「親をぶつんじゃねえ~」と
私は、息子の胸倉を左手で突いた。
私は体重85kg。体がスポーツで鍛えてある。
私は、軽く押したつもりだったが、
息子は、後ろに吹っ飛び、背後のふすまにぶつかり、くずれ落ち、
上にかけてあるのれんが落ちた。
息子はびっくりした顔になり、
起き上がると、
「おまえ関係ねえ」
「親をぶつな、この野郎」とにらみあった。
「警察行くか!」
「行こう」
おばあちゃんを含めて3者で駅前の警察まで歩いていくことにした。
私は少し歩くと疲れて休む足の悪いおばあちゃんと一緒に
歩いていった。息子はとうの先へ歩いていき
姿はもはや見えない。
逃げたら、やだなと思いつつ警察へ向かった。
乗りかかった船、どこまでやんなきゃいけないのかと思いつつ。。。